Nam(a)e

    登場人物
      私/君/彼女/練木( ねりき)
      僕/貴方/彼/屶網( なたあみ)



     大切な写真を燃やしてしまいたくてそれが出来なくて出来なくて出来ないからって、
     河原でそれを流してしまうことにした、貴方。
     大切な貴方を失くしたくなくてそれが消えそうで消えそうで消えそうだからって、
     河原で貴方を殺すことにした、私。

     パン屋のシャッター。並ぶテールランプ。冬の匂い。排気ガスの匂いだ。知っている。
     河原。ライター。脚立。カメラ。あなたの青春。写真。

僕 「それで。今から燃やすわけだけど、お前を」
私 「彼はその、好きな人がいたんだと思います。居たんです」

     これは憶測の話です
     あなたの作った私の話はそういうただの思想の塊

君 「いいのかな」
僕 「なにが」
君 「火」
僕 「花火のゴミが落ちてるから」
君 「どうなのそれ」
僕 「秋も終わりの花火は、きっととてもいいだろうね」
君 「違う」
僕 「火遊び禁止とかの札も無かったし」
君 「ないよそりゃ」
僕 「あるよ、禁止なら」
君 「道路に人を轢かないように! って書かない」
僕 「線路侵入禁止は書いてあるのに不公平だ」
君 「……じゃあ教室」
僕 「書いてあるよ」
君 「教室に火気厳禁って書かないだろ」
僕 「あったよ、うちの学校は」
君 「……、……。……、あったな」

私 「煙草を吸う学生の多い……少なくはない学校だったので。そのことを先生達が知っていたのかを確認するすべはなかったけれど、私でさえ誰か知らない人の落とした吸殻をポケットにしまってなかったことにしたことがあるくらいだから。それは仲間意識と言うよりある意味の秘密の共有に近く、例えば学年集会を開かれてはかなわないなと言うだけの共通観念でした」
私 「学校で吸わなければばれないのに彼は決まって四時間目が理科である日の昼休みは委員会――確か図書委員会だったな――の、当番に行く振りをしながら吸っていた。体育館と第四校舎の隙間に潜んだ彼の陰鬱な青春。それは確かに死角であったけれど第四校舎の北階段の二、三階の間の踊り場からは見えていることを彼は知らなかったのでしょう」
私 「そうして私が切ったシャッターたちも」

     シャッターがきられる。
     彼の隣に張られた火気厳禁の紙はボロボロで、彼はその端に煙草を押し付けた。 
     焦げていく。目が、

     橋の上、橋の下。

私 「いい天気でも無かったけれど夕焼けくらいは見れるかもしれない」
彼 「高架下は、がたたんがたたんっていう車の音が鳴り響く」
私 「十分に一本電車が来る程度の都会の中では格下だなーっていう黄色いラインの電車が通る場所」

私 「――あ。」

私 「彼だってわかったのは大したことなかったと思う」
僕 「うるさいな。別にいつでも点けられる、火ぐらい」
私 「橋の下の河原を覗き込むのが日課だったわけじゃないけれど、別にそうして彼を見つけたことを奇跡だと思うようなメルヘンは高校生活くらいに捨てたし」
僕 「ああもう、いいだろ。一本吸ったらだって」
私 「彼と私の地元は一緒で、だから行動範囲が似通っていても何ら不思議はない」
僕 「今日はあの煙草を吸う」
私 「中学の頃よりも少し背が伸びていた」
僕 「セーラー服? もう着ないね」
私 「あの日と変わらない煙草を吸っていた」

     シャッターがきられる。
     ピアニッシモ・アイシーン・グラシアを吸う、彼。
 
(僕 「もう、だいじょうぶだよ、先生」)

私 「思わず切ったシャッターは私と彼の薄暗い生活には似合わないくらい軽快な音を立てた」

     切られたシャッター。
     目が、合う。

     高架下。彼の元へ行く私。

彼 「盗撮」
私 「久しぶりだね」
彼 「あの、盗撮」
私 「やっだー、めっちゃ久しぶりだね!」
彼 「え、仕切り直すんだ」
私 「いいから久しぶりって言われたら久しぶりってテンプレ返してもらっていいですか?」
彼 「……ひさし……ぶり……?」
私 「覚えてない、かな」
彼 「いや覚えてるよ全然覚えてる、うん、いや、……。……。……いやいやいやいや」
私 「覚えてないか」
彼 「田中さん」
私 「覚えてない!」

私 「タ行のいないクラスでした」
彼 「田中も棚橋も高橋も竹内も多々良も谷川も種田も玉木も茅ヶ崎も津村も手島も寺田も藤堂もいなかった?」
私 「ナ行はぼちぼちいた」
彼 「そうだっけ……」
私 「私はそのぼちぼちのナ行として存在し、彼もまたぼちぼちいたナ行の一人であった。そのため出席番号の関係で学期の初めには必ず教室の真ん中あたりで隣に座った。ことは、私にとってはぼちぼち大事な要素として存在していた。
   ……それが一方通行であったことの再認識を今、強いられている」

      中学校。教室の真ん中は隅よりも幾分か居心地が悪い。
 
私 「スクールカーストで言えば、底辺だった。底辺×高さ÷2の、底辺。三角形があって、こっち。こっちの、このへん。明らか上の方じゃないなって言うやつらの中にも一応さらに格付けがあって、吹奏楽とかは数で勝負して下の上らへん陣取ってて、そのいっちばんしたから数えて二番目くらいに位置するのが、写真部。私はそこでじっとりと息をひそめながら彼を追っていた。湿気た体育倉庫の奥底の様な薄暗い青春の話、というと小説的でいいけれど、つまりは後々塗りつぶすやつ。黒歴史」

彼 「なに? 写真?」
私 「え、」
彼 「いいなあ、今度見せてよ」
私 「いやだよ」
彼 「見せるために撮ってるんじゃないの」
私 「見るために撮ってるの、貴方のためじゃない」
彼 「俺のための写真はそう言えばどこにもない」
私 「なにそれ」
彼 「センチメンタル」
私 「真冬の花火?」
彼 「はは、中二病、」
私 「教室の隅に必ず居たあの子のこと、あの子のためのお話は世界のどこにもない。あの子の世界を救うのはあの子しか居ない。そういうことの繰り返し。どんな文脈でもそうして私達はひとりっきりで生きていかなくちゃいけないことを知ったんです、知って、仕方ないから」
僕 「そのための兵器ってわけだ」
私 「これさえあれば平気、みたいな」
私 「私にとっては。写真は何一つ誰かのためには無かった。私には私の為にしか写真を撮らなかった。撮れなかった。」

     写真。集合写真を持つ彼。
 
僕 「集合写真を買うことは違和感がなくて、だから誰にもばれないで貴方を買うことが出来ることを知っていて狙っていたんだけど。貴方は三組と四組のどちらにも映っていて、俺は四組だったから三組の集合写真を買うことはとても違和感のあることだった。けれど。けれどでも一瞬一瞬の貴方はそれこそ一秒ごとに異なることを知っていて、0004、の、隣に書いた、0003の不自然な番号は俺と写真屋さんの秘密ってことで。ストーカーストーカーストーカーストーカーですよこういうの。こんなんでなんっでもない顔して学生なんてやってんだからお笑いってゆーか、世の中終末観あるねっていう。なんか色々あいまって吐きそう」

君 「写真なんかで何が残せるっていうの、あんた」

僕 「こんなことしてる時点で明確だけど俺は意外と純情であの人に一緒に写真を撮ってほしいなんて言うことは出来ず、そうやって思い出にすることすらしないまま形ある俺とあの人との思い出を一つも持たずにそのまま中学生活を終えてしまったのだなあと、気付いている」
君 「こじらせてるねえ」
僕 「うっせえな」

     彼の視線が動く
     追っている物は分かりやすい

私 「副担任の、先生」
僕 「えー、マジでいってんのそれー」
私 「三組と四組の担任で、理科を教えている」
僕 「俺? ばかにしてんでしょ、ホント」
私 「彼は理科が得意だったのにいつも先生に質問に行っていた。分かりやすい」
僕 「先生って、煙草、吸うんだ」
私 「先生の薬指にはきちんと指輪がされていることも」
僕 「女煙草ってやつでしょ、これ。軽くって、メンソールの、」
私 「彼にとっては愛しいことの一つなのかもしれない」
僕 「へー、でも5ミリじゃん、どーなの」

僕 「家族に言われたらしい。家族ってゆうか、まあ子供が出来て自然にというか。元々夫婦そろって煙草を吸う人で、子どもが出来たから二人で辞めることにした。第一歩として今までの12ミリとかより軽めの、奥さんが吸ってたのが1カートン残ってたから吸って。まあ辞めらんなくて、吸い続けてる。多分今も。そう確信する。ピアニッシモ・アイシーン・グラシア。きつめのメンソールのやつ。俺が最初に吸った煙草」
僕 「ちなみにいうと、全然あわなくて、今は違うのを吸ってるけどそれも俺にとってしか意味のないことで、今吸ってるこれは同じ銘柄だけど種類が違って。高校生の最初くらいの頃付き合ってた人の影響で吸ってるわけで、そういう、そういうことだ」

僕 「うん、うん、わかってるよわかってる。分かってるってば」

彼 「もう、大丈夫だよ、先生。」

     彼は先生からくすねた煙草に火を点ける
     シャッター音



     



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