不謹慎なので。
 不謹慎なので、普通に好奇心を持った。

 拾い集められる線路に飛び散った肉。肉だろうな、と、思う。直視はしないでおく。目をそらす。茹だる暑さの中、くらくらするくらいに単純な想像力でのえげつなさの補完。
 拾われたり、水で流されたりしていく、多分一部は土に還っていくだろう。なるべく早くに雨が降るといい。こんな滅茶苦茶な暑さの中では腐っていくことだって億劫だろう。
 ビニール袋に詰められていくそれと、バケツとブラシ。炎天下ではなにもかもが暴力的だ。遠巻きに眺めながらあいつの肉は果たして人間のそれだろうかと考えていた。あいつ、という言葉の中には恐らく何人かいて、やつらは各々やはり赤い血肉など撒き散らしそうになく、今日も溶けたり枯れたり錆びたり、している。

「ちょっと! 電車とまってるんですけど」

 イヤホンをつなぎっぱなしの携帯から、小さく通知音がした。見れば竹内から連絡が入っている。知ってるよ。今日は待ち合わせをしていたが、間に合いそうにない。俺だけじゃなく、お互いに。
「っていうか安藤の最寄じゃない?」
「ああ、うん、いま目の前で、」
「待って待っていまグロい話しようとしたでしょ怒る」
「……怒るなよなんなんだよ」
 画面の向こうでは多分此処とは違う倦怠感であふれかえっているのだろう。待合室が混み合ったり、電光掲示板を無駄に睨んだり、放送が入るたびに舌打ちしたくなったりしている、そういう息の苦しい景色が思い浮かぶ。その中で竹内は俺にその息苦しさの隙間から呼吸を求めて連絡している。まるで会話のように文字が画面に並んでいく。

「あと10分くらいらしいけど」
「安藤が言うならそうなんでしょ」

 俺と竹内の距離は存外に遠い。現在120分以上の遅れを持って、運転さえしていない。イヤホンは時折の通知を伝えながら音楽を流し続ける。もう少しして動き始めたら、本当に何事もないようにこの閉塞した炎天下は終わる。何も変わらなくなることを、俺たちは文字にして認識していた。
 まるで溶けることの確認のように、枯れることの視認のように、錆びることの黙認のように。

 小林はきっと、この事故を知ることはない。



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