サクマドロップス




 がり、と、いやな音がした。隣の彼は素知らぬ顔でその塊を咀嚼する。がり、がり、がり。

「あ、噛んだ」
「……ああ」
「ばかぁ、勿体なーい」

 懐かしの、ってコーナーにあった缶入りキャンディ。わたし、もしかして好きだったかも、とか曖昧に思って買ったら、わたしじゃなくて彼が好きだったのだった。飴。
 がらがらと言う音を立てるサクマドロップス。この最後のスの響きが良いと思う。瑠璃太はわかんねえって言うと思うけど。この“ス”は爽やかな黄緑だと思う。

「なんつーか、悪い、メロン嫌いなんだ」
「うっわ最低! ヒトから貰っといて!」

 返せ! と、わたしは巫山戯て瑠璃太の頬を引っ張った。実は結構伸びる。瑠璃太自体は固そうなのに、頬だけは柔らかく甘やかである。その柔らかな肉の内側に、砂糖の欠片がばらばらになっている。
 不思議だと思った。悪いことでもしているみたいな、嫌な感じにわくわくする。

「お前は噛まねーのかよ、飴」
「噛まないよ」

 なんで。と、生真面目な顔して訊ねられた。なんで、なんて、そんな無茶苦茶な。飴はゆっくり舐めるものじゃないですか。そう小さいときに習ったじゃないですか。噛むと歯に詰まっていやだし。

「瑠璃太こそ、なんで噛んじゃうの」
「……幸せ、じゃね?」
「なにが」
「死ぬほど贅沢だと思うんだよ、これ」

 誰かがいつか時間をかけて味わう筈だった其れを砕くことが、なんとも言えなく贅沢で、好き。瑠璃太は綺麗に笑う。サクマドロップスの、クみたいに、淡いパステルピンクで笑う。
 意地悪い贅沢、とわたしが呟くのを、きっと彼は待っている。意地悪い男の子。




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