「俺、教授の本当の色って一回も見たことが無いんですよね、そう言えば」
「あら、本当の、だなんて。君の景色の方が本物かもよ」

 蝶々の模様は紫外線領域の光線が可視である場合には人間の景色とは全く違うものが浮かび上がる、この場合に一体どちらを本物とするかという定義は難しい、というか定義し得ないだろう。そんなもの基準を人間に置くか否かでしかない。
 聞き飽きた。だから俺の景色は至って正常? そんなものは理屈の話で机上の物語だから口に出来るのだ。当事者になってみやがれ、なんて、教授は嬉々としてそれを受け入れるのだろうけれど。うんざりだ。

「別に、ただ、教授の知ってる教授を俺は知らないんだと思っただけですけど」
 例えばその白衣の純白を俺は脳内で想像して埋め合わせる。ちかちかと瞬くその全てをなんとか自分の昔見慣れた人間の色に置き換えながら見ているだけ。
 実際の彼女は俺の知らない色をしているのだ。その笑い声もなにもかもがどんな色を持つのか、俺は知らない。それは今までに存在しない大きな疎外感で、ふと無性にこの目玉を刳り貫いて無かったことにしてしまいたくさえ、なるのだ。

「ばかねぇ、そんなの誰も知らないわよ」

 私の景色は私しか知らないの、君の景色が君にしか分からないようにね。彼女はどうでもよさそうに答えた。心底くだらねぇと言いたげだった。彼女はセンチメンタルが嫌いだ。

 君のあおは私のあかかもしれないわ、もしか、もしか。歌うように言って、彼女は俺に紅茶を注いだ。甘やかされて、いる。




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